不動産テックSaaSのリファラルマーケティング成功事例4選——TurboTenant・DoorLoop・Hospitableに見る「顧客が顧客を呼ぶ」紹介設計

田中 悠

2026/6/24

賃貸管理や民泊運営の現場では、顧客獲得コスト(CAC)の上昇が重い課題になっています。広告単価は上がり続け、SMB向けのSaaSほど、1件の有料契約を取るための広告費が利益を圧迫しがちです。

そんな中、不動産テックSaaSの成長企業は、広告に頼り切らない別のチャネルを伸ばしています。それが、既存ユーザーによる「紹介(リファラル)」です。大家やホストが、同じ立場の仲間に「これ使うと楽だよ」と勧める——この連鎖を、各社は感覚任せにせず、報酬付きの紹介プログラムとして設計しています。

本記事では、TurboTenant・DoorLoop・Hospitable・Hostawayという不動産テックSaaS4社の紹介設計を分解します。それぞれが「誰に・何を・どう報いているのか」を比べると、報酬設計の違いと、業種を超えて使える共通原則が見えてきます。SMB向けで単価が手頃、かつ「使ってよかった」を語りやすい——リファラルマーケティングが最も効きやすい条件を備えた領域だけに、自社の紹介を仕組み化したいBtoB企業にとって示唆に富む事例です。

なぜ不動産テックSaaSは「紹介」で伸びるのか

賃貸管理・民泊運営SaaSが紹介と相性が良いのには、構造的な理由があります。リファラルマーケティングが効きやすい条件を、これらのサービスがそろって満たしているからです。

第一に、顧客同士の横のつながりが強いことです。大家には大家のコミュニティがあり、民泊ホストにはホスト仲間の情報交換があります。物件管理者は地域の同業者とつながっています。紹介が連鎖する「土壌」が、もともと業界の中に存在しているのです。

第二に、「使ってよかった」を語りやすいことです。家賃の集金が自動化された、予約の二重ブッキングがなくなった、内見申し込みが一元化された——こうした業務改善は体験として分かりやすく、人に説明しやすいものです。効果が曖昧なサービスは紹介されにくいですが、これらは「何がどう楽になったか」を具体的に語れます。

第三に、ターゲットが広く、単価が手頃なSMB中心であることです。数戸を持つ個人大家から中小の管理会社まで対象が広く、月額数十ドルから始められる価格帯のため、勧める側も気軽に紹介でき、勧められる側も試しやすい。紹介のハードルが低いほど、連鎖は起きやすくなります。

この「①横のつながり ②語りやすい体験 ③広いSMBターゲット」は、そのままBtoB企業が自社の紹介可能性を見極めるチェックポイントになります(関連:リファラルマーケティングが向いているBtoB企業の5つの特徴)。では、この好条件の上で各社がどんな報酬を設計しているのか、4つの事例を見ていきます。

不動産テックSaaSに見る、紹介設計の4事例

紹介プログラムと一口に言っても、報酬の「形」「金額」「払うタイミング」は各社で大きく異なります。4社の設計を、それぞれの狙いとともに見ていきます。

事例1:TurboTenant —— 双方向フラット報酬で紹介の心理的ハードルを下げる

米国の個人大家向け管理SaaSであるTurboTenantは、シンプルかつ双方向の紹介設計を採用しています。既存ユーザーが別の大家を紹介し、その人が所定の条件を満たすと、紹介した側とされた側の両方が25ドルのAmazonギフトカードを受け取れます。紹介できる人数に上限はなく、何人紹介してもその都度ギフトカードが得られます(出典:TurboTenant)。

この設計の妙は「双方向(give & get)」にあります。紹介する側だけが報酬を得る一方通行の設計では、「友人をダシに自分が得をする」という後ろめたさが生まれがちです。紹介される側にも同額が渡る設計にすることで、その心理的ハードルが消え、「お互いに得だから」と気軽に勧められるようになります。

金額を25ドルと小さめのフラット額に抑えている点も合理的です。高額報酬は質の低い紹介を誘発しやすく、SMB向けの低単価サービスでは採算も合いません。少額でも双方向なら、もともと横のつながりが強い大家コミュニティの中で、紹介は十分に連鎖します。

事例2:DoorLoop —— 「90日稼働」で質を担保し、紹介を追跡可能にする

物件管理SaaSのDoorLoopは、TurboTenantとは対照的に、高額かつ片方向の成果報酬を設計しています。紹介された顧客が登録し、90日間アクティブに利用を続けると、紹介した側に250ドルのAmazonギフトカードが支払われます。紹介された側は初年度10%オフを受け取れます(出典:DoorLoop)。

注目すべきは「90日間アクティブ」という条件です。登録した瞬間ではなく、定着した時点で報酬を払うことで、「とりあえず登録だけ」の質の低い紹介を防ぎ、本当に価値を感じて使い続ける顧客の紹介だけに報いる設計になっています。報酬額が250ドルと高めなのは、それだけ「定着した優良顧客」の価値が大きいからだと考えられます。

もう一つ重要なのが、DoorLoopが紹介の追跡にFirstPromoterという専用ツールを使っている点です。紹介者は自分専用のリンクを持ち、クリック数や紹介の成立状況をリアルタイムで確認できます(出典:DoorLoop)。「誰の紹介で誰が成約したか」を正確に記録できて初めて、成果報酬は公平に支払えます。紹介の仕組み化とは、突き詰めればこの「追跡」をどう実装するかの問題でもあります。

事例3:Hospitable —— 報酬をプロダクトクレジットにして継続利用に還元する

民泊・バケーションレンタルのホスト向け運営SaaSであるHospitableは、報酬の「形」に工夫があります。紹介した側には100ドル、紹介された側には30ドルが、現金やギフトカードではなくサービス内のクレジットとして付与され、次回以降の請求に充当されます(出典:Hospitable)。なお、旧料金プラン(2022年10月3日以前の契約)や無料プランの場合は、双方とも30ドルずつになります。

報酬をサービスクレジットにすることには、明確な狙いがあります。現金やギフトカードは受け取った瞬間にサービスとの関係が切れますが、クレジットは「使い続けるほど得」という形で継続利用に直結します。紹介報酬が、そのまま解約防止(リテンション)の施策にもなっているわけです。

さらにHospitableが興味深いのは、自社の紹介プログラムを持つだけでなく、ホストがゲストへ紹介特典を案内できる自動メッセージ機能も備えている点です(出典:Hospitable)。紹介で伸びたサービスが、顧客であるホストにもゲストへの紹介を促す手段を手渡す——リファラルを成長の核に据えている姿勢がうかがえます。

事例4:Hostaway —— ゲーミフィケーションで紹介を「イベント化」する

同じく民泊運営SaaSのHostawayは、紹介をゲーム的に盛り上げる設計を採っています。紹介が成立するたびに、紹介者は300ドルのギフトカードを受け取れ、人数の上限はありません。加えて、最も多く紹介したトップ紹介者には1万ドル相当を贈るグランプリ企画も打ち出しています(出典:Hostaway)。

通常の固定報酬に「トップ紹介者への特別賞」というコンペ要素を重ねることで、紹介は単発の行為から、参加して競うイベントへと変わります。とりわけ熱量の高い一部のユーザー(アンバサダー的な存在)は、こうした上位インセンティブに強く反応し、突出した紹介数を生み出すことがあります。全員に薄く報いる設計と、トップに厚く報いる設計を組み合わせ、裾野と頂点の両方から紹介を引き出しているのです。

4つの事例に共通する、紹介設計の3つの原則

4社の報酬設計はそれぞれ異なりますが、横断すると、紹介を「運任せ」から「仕組み」に変えるための共通原則が見えてきます。

  1. 「誰の紹介か」を追跡できる状態をつくる: TurboTenantの専用リンクも、DoorLoopのFirstPromoter連携も、根底にあるのは紹介元を確実に記録する仕組みです。貢献者を特定できなければ報酬は払えません。紹介の仕組み化は、報酬制度を考える前に「追跡」の実装から始まります。

  2. 報酬の「形」と「タイミング」を顧客に合わせる: 双方向の少額ギフト(TurboTenant)、定着後の高額報酬(DoorLoop)、継続利用に効くクレジット(Hospitable)、競争を促すグランプリ(Hostaway)——どれが唯一の正解ということはなく、自社の顧客が何に動くかで報酬を設計しています。

  3. 紹介する側の「心理的ハードル」を下げる: 双方向にして後ろめたさをなくす、成果が出たときだけ払って納得感を高める、ゲーム化して楽しくする。報酬の多寡だけでなく、「紹介しやすい体験」をどう作るかが、連鎖が起きるかどうかの分かれ目になっています。

自社で「顧客が顧客を呼ぶ」状態をつくる

不動産テックSaaSの事例は、SMB向けで体験が語りやすいサービスほど、紹介が強力な成長チャネルになることを示しています。自社の紹介を仕組み化したいBtoB企業が、明日から着手できることを3つに絞ります。

第一に、報酬よりも先に「追跡」の仕組みを用意することです。 多くのBtoB企業では、紹介経由の商談が来ても、誰が紹介してくれたのかが営業担当の記憶やメールに散らばり、報酬を払おうにも特定できない状態に陥りがちです。DoorLoopが専用リンクとツールで紹介元を可視化しているように、「誰の紹介で案件が生まれたか」を記録できて初めて、紹介者に公平に報い、次の紹介を促せます。

第二に、自社の顧客が「何に動くか」で報酬の形を選ぶことです。 現金が響く顧客もいれば、サービスのクレジットや限定特典が効く顧客もいます。Hospitableのようにクレジットで継続利用につなげるか、Hostawayのようにゲーム性で熱量の高いファンを動かすか——一律のキャッシュバックに飛びつく前に、自社の顧客像から逆算する余地があります。

第三に、紹介する側の心理的ハードルを下げることです。 TurboTenantの双方向設計のように「紹介される側にも得がある」状態を作れば、顧客は罪悪感なく仲間に勧められます。成果が出たときだけ報酬が発生する設計も、紹介する側の納得感を高めます。

こうした「追跡・報酬設計・支払い」を、表計算ソフトと手作業で回すのは現実的ではありません。紹介が増えるほど、誰の紹介か・報酬はいくらか・いつ支払うかの管理は破綻していきます。リファラルマーケティングの仕組み化を支援する「Jolt」は、紹介者の管理から紹介のトラッキング、報酬設計、報酬支払いまでを一元化し、不動産テックSaaS各社が築いた「設計された紹介」を、特別な開発なしに自社で再現できるようにします。

おわりに

4社の紹介設計を見てきました。双方向フラット(TurboTenant)、定着後の高額成果報酬(DoorLoop)、継続利用に効くクレジット(Hospitable)、競争を促すグランプリ(Hostaway)——形は違っても、共通するのは「紹介元を追跡し、顧客に合った形で報い、紹介しやすくする」という設計思想でした。

これらはいずれも、SMB向けで体験が語りやすいという、リファラルマーケティングが効きやすい好条件を備えたサービスです。同じ条件を持つBtoB企業なら、紹介は「運が良ければ起きるボーナス」ではなく、設計して伸ばせる成長エンジンになり得ます。「紹介はうちでも起きている」で止めず、それを記録し、報い、起こしやすくする——その一歩が、紹介を再現可能なチャネルに変えていきます。

リファラルマーケティングの仕組み化を支援する「Jolt」は、紹介者の管理、紹介のトラッキング、報酬設計から報酬支払いまでを一元管理し、BtoB企業のリファラル戦略を加速させるプラットフォームです。

リード獲得や商談化に課題を感じている方は、ぜひ一度ご相談ください。

監修者

田中 悠

株式会社AREYO

代表取締役CEO

リファラルマーケティングSaaS「Jolt」を通じて、リファラルマーケティングの戦略策定から紹介プログラムの導入を多方面から支援。

紹介が属人化・形骸化しやすい構造に向き合い、パートナー・顧客・社内から自然と紹介が生まれる仕組みづくりに尽力。

<<主な略歴>>
キヤノン株式会社に新卒入社後、一眼レフカメラのグローバルマーケティングを担当。その後、株式会社プレイドに参画し、セールス、カスタマーサクセス、プロダクトマネジメントを横断し、主にアパレル企業のCX向上を支援。2020年6月より株式会社バニッシュ・スタンダードに参画し、執行役員としてビジネス全体を統括。2025年4月株式会社AREYO創業。

愛媛県松山市出身。みかん好き。

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